大地の彫刻
中国紅河のハニ棚田
作者/呉亜民
今から2000年前、中国北西部の青蔵高原に暮らしていたある騎馬民族が、雲南省南部の哀牢山脈に移り住み、強い意志と優れた知恵を持って勤勉に働き、現代人をも驚愕させるほどの「棚田」を築き上げました。このもとの騎馬民族が現在のハニ族です。
この大規模な棚田を築き上げたことにより、ハニ族の生活環境が大きく変化し、遊牧、焼畑の不安定な生活から新しい農耕生活に変わり、民族文化、価値観、人生観なども新たに生まれてきました。これを「ハニ族棚田稲作農耕文明」といいます。
自然に従い天理に順応することは、棚田文化の精神の本質です。ハニ族は今も原始的な精霊信仰を守り、万物は魂を持っていることを信じています。このような原始宗教思想によって一年中様々な祭事があり、その中で最も盛大な祭りが「長街宴」とも言われる「アンマート」で、村の神木を祭ることです。ハニ族の住んでいる所には一つの共通する特徴があります。山の上には森林があり、中腹には村、村から麓までが棚田となっています。「森林」・「村」・「棚田」はハニ族農耕文明の三大要素で、多くの森林に恵まれ、灌漑用水も枯れることがなく安定した田植えが可能となり、棚田の保水機能により、洪水の災害も殆どありません。
この森林・村・棚田の三大要素がハニ族の民族文化を築き上げたと共に、素晴らしい景観「大地の彫刻」を創り上げたわけです。紅河の峡谷から哀牢山脈の間に一段一段と、果てしない数の棚田があり、高いところは千段以上、広いところでは数万枚もあります。 春は鮮やかな民族衣装を着て忙しく田植えをする女達の姿に目を奪われ、夏は青々とした稲が風にそよぎ、秋は一面黄金色の実りを迎え、村人総出で稲刈りをします。冬の棚田には水が満々と張られ、畦道がくっきりと浮き出して雄大な「大地の彫刻」が美しく現われます。
私は旅行会社に勤務していますが、撮影芸術を20年あまり追求してきました。そして、人と自然がうまく調和しているハニ族の棚田文化に特別な興味を抱きました。この写真集は、私が数十回にわたり紅河南岸の元陽、紅河、金平、元江を訪れ、四季折々の棚田文化を写真に納めてきたものです。これらの作品を通じて、雄大な「大地の彫刻」と見所のあるハニ族文化を皆様にお伝えする事ができれば幸いです。
2007年8月
写真集
大地の彫刻-中国紅河のハニ棚田
悠々たる青蔵高原
茶馬古道―西南シルクロード―雲南篇
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